第13回日本海オロロンライントライアスロン国際大会

1999年8月22日 日曜日 天候:くもりのち雨
種目:Swim 2Km、Bike 200.9Km、Run 41.8Km
記録:9時間19分19秒 (Run 27.7Km地点)

 Swim32分21秒(82位)
Bike6時間21分53秒(98位)
Run2時間25分05秒(27.7Km)

 『ここで中止です』
 エイドに到着し、一休みして再びスタートしようとしたところで目の前に係員が来て告げられた。何のこと?と思ったが、天候の状況からは簡単に納得できた。テントの中を見ると既に10人くらいが毛布にくるまりイスに座っていた。一言、『そうですか』と言うと、あとは言葉が出てこなかった。
 少しは小降りになって走りやすくなってきてはいたのだが、道路は水たまりだらけ。少し前まではシャワーと強風の中を走り続けていた。雨のおかげか、体は適度に冷やされ、調子は快調そのものだった。

 午前3時30分、危ぶまれていた空模様も、星が見えており雨は心配なさそうだった。少々寝不足の感はあったが、すぐに朝食に向かう。5時にバスが会場へ向かう予定。4時過ぎには食事も終わり、準備完了。早めに玄関でバスの来るのを待つ。5時では遅いだろうと思っていたが、バスも早めに出発し、5時頃には会場の増毛港に到着していた。

 今年は準備が良かったのか、スムーズに支度が整い行動にも余裕があった。最終チェックのスイムゲートインも早めに済ませ、スイムのアップも十分に行う。スタート15分くらい前に開会式。何人かの挨拶があり、スターターの橋本聖子氏が紹介される。北海道トライアスロン連合の会長だそうだ。ここがいちばん盛り上がった。

 今回は密かにスイムの順位アップを目指し、スタート地点も右側のブイに近い方から出るつもりでいた。スタートが近くなるとさすがに右側には人が寄ってきて、だんだん左に寄っていく。ちょうど真ん中あたり、人の少ないところができていた。自信のある組と自信のない組の境目か、明らかに人が少なかった。そこから聖子氏の合図でスタートを切る。6時30分。

 やはり位置取りが良かったのか、スムーズに泳ぎ出せる。マナーも良くなってきているのか、ひどいバトルもない。しかしいつもの癖か、人のいない方、いない方へと向かっている。海のコンディションは良好、透明度も良く、水もきれいだ。第一ブイまで200m、ブイを過ぎて右に折れる。その後は、700m、200m、700mの三角形を泳ぎ、元のブイまで戻ってくる。潮の流れも良かったのだろうか、とても泳ぎやすく、終始気持ちよく泳げた。スイムのコンディションは最高だった。

 自信を持って臨んだスイムは、岸に上がって時計を見ると、7時2分、なんと32分で帰ってきていた。記録計測で渋滞ができたが、バイクラックに行くと、バイクがたくさんある。たくさん有りすぎて、自分のラックが判らないくらいだった。着替えに手間取りながらも、しっかりと準備を整え、スタートゲートへ向かう。

 いつものように、連れて行った子供に軽口をたたきながら、バイクにまたがりスタートしていく。自分でもびっくりするくらいの順位のようだ。早く上がっただけあり、まわりのバイクも結構速い。先も長いだけに無理をするようなペースでは走らない。ほとんどマイペースといった感じ。前のバイクともそれほどスピード差はなく、ほぼ同じ間隔を保って走っている。ダンゴになるようなこともなく、いい状態で走る。風もいいようで、後ろから吹いてきているようだ。コンスタントに35キロくらいは出ている。

 今年で6年連続となり、コースもほぼ頭に入っており走るにも楽である。ひとしきり、北海道らしい雄大な景色の中を走り、55キロほど行くと、海岸線からはずれ、アップダウンの連続が始まる。今年は追い風のせいか、それとも力が付いてきたせいか、それほど苦にならない。

 60キロあたりだったか、後ろからなれなれしく声を掛けてくるやつがいた。横を見ると、なんと鈴木。『スイム速かったですよ、36分でした。』などと言ってくる。私も速かったが、鈴木も速かったということ、みんな速かったわけで、コンディションが良かったのだろう。『バイクも調子いいですョ』その言葉を残し鈴木は先行した。まだ1/3も来ていないところでそんなに行って大丈夫かとも思ったが、そんな心配はよそに、いつの間にか見えなくなっていた。

 つらいと思っていた約100キロまでのアップダウンもいつの間にか終わり、バイクのゴール地点となる遠別の道の駅を通過し、天塩、幌延を目指す。天塩を過ぎると再び海岸線。冬はよっぽど厳しいのだろうか、まわりには何も無い。140キロを過ぎて海岸線とは別れ、折り返しとなる幌延を目指す。

 しばらくは山の中を走る。昨年はちょうど昼時でいなかった太鼓の応援も、今年は見ることができた。少しは速いのだろうと気を良くする。数年前はゴールにもなっていた幌延体育館を折り返せば、残りは40キロ、もう先は見えてきた。先行していた鈴木はどうしたかと先の方を見ても、どうもいない。きっと落ちて来るだろうと思っていたが、その予想ははずれてしまった。私もなんとかだれることなく、最後まで走りきれそうだった。今年は何ヶ所か雨に降られた所もあったが、今年はずいぶん雨の中でバイクに乗ったこともあって、何の苦にもならなかった。逆に利用するエイドの数も少なく、好都合だった。

 バイクトランジッションからのバイクタイムは6:15、途中で設定したゴールタイムにほぼ近いタイムでバイクフィニッシュとなった。ここではバイクの台数などは分からず、順位までは分からないが、ある程度の手応えをもってランへと移ることができた。子供から、鈴木が5人くらい前にいることを教えられた。今回のランも気持ち良く走れそうだった。すぐに追いつくことを約束し走り出す。

 日差しは無くとても走りやすい。すぐに前方に鈴木の姿を発見。その差が縮まっているのは明らかで、追いつくのも時間の問題だった。2キロほど走ったあたりで鈴木をパス。すでに何人か抜いてきており、とても快調だった。しかし上手もたくさんいるもので、続けざまに3~4人に抜かれてしまった。しかしそのうちの何人かは、案の定途中でペースが落ちてしまっていた。私の方は殆どペースは変わらず、まさに快調、気持ち良く走り続けることができた。10キロは50分を切るペースで通過。この先がバイクで走ってきたアップダウンの繰り返しとなるのだが、のぼりもそれほどスピードは落ちることなく走り続ける。

 今回のエイドはあっという間にやってきた。通過してもよさそうなくらい調子が良かったが、そこはエイドに敬意を表し冷たい水をもらっていく。宮塚はエイドを過ぎるとペースが上がったそうだが、私はエイドを見つけるとペースが上がった。上り坂も何の苦にもならず、『上りがあれば下りもあるさ』と心の中で唄いながら、上りを楽しんだ。

 順位もどんどん上がっていった。ランニングハイの状態か、自分の走る道だけしか目に入らず、いつから雨が降り出したかも覚えていない。しかし、中間のエイドを過ぎたあたりだったか、周りには遮るものが何もないアップダウンのまっただ中、スコールのような雨がおそってきた。更に風も吹きだした。しばらくは、シャワーと風の中を走らされてしまった。アップダウンの繰り返し、南の島のようなシャワー、まさに自然との戦いのようなレースになった。そんな厳しい条件の中でもボランティアの人達はしっかりとサポートしてくれていた。雨の中を走らせてもらい、申し訳ないと思いながら、気持ち良く走り続けた。

 雨もだいぶ小降りになり、走りやすくなってきていたところで、何回目のエイドだったろうか、コーラをもらって走り出そうとしたところだった。エイドの責任者と思われる人が目の前に現れた。

 続々とランナーがやって来て、テントの中はいっぱいになってしまった。ざっと、3~40人はいただろうか。体が冷えないようにゴミ袋をかぶり、テントの中でその後の対応を待っていた。ボランティアの人たちは、選手に暖かいものをと、みそ汁やらコーヒーやらとまだまだ働いていてくれていた。

 そのうちバスが何台かやって来たが既に満員状態。それらをやり過ごし、やっと空のバスがやってきた。お世話になったエイドの人達に別れを告げ、不本意にもバスでゴールを目指すことになってしまった。バスに乗る頃には雨も上がり、ゴールの羽幌町では雲の間から青空も見えてきていた。更に宿のサンセットプラザに着いた頃には、きれいな夕陽が見えていた。

 ゴール会場の体育館には人が溢れていたが、その中に何人かのフィニッシャーメダルを懸けた人を見かけた。てっきり中止と思っていたレースは、終了時刻を切り上げ、16人のフィニッシャーが生まれただけだった。日没までにはまだ間があっただけに、もう少し何とかならなかったかと、悔いが残った。

 私の止められたエイドは「第2栄」、27.7キロ地点だった。しばらくして止めた時計は、40分44秒を示していた。20キロ地点からここまでも、5分15秒位で走れていた。結果が期待できただけに残念な決定だった。


 やはり私はランナーか、このレースで走りながら改めて色々なことを考えた。

 平家物語の冒頭、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、娑羅雙樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。奢れる者久しからず、唯、春の夜の夢のごとし。猛き者も遂には亡びぬ。偏に風の前の塵に同じ。」
 詳しい意味まで私には分からないが、奥の深い内容だ。人生は謙虚に送らなければ。

 上り坂があればその先にはきっと下り坂もあるということ。
 テレビで放送された映画の中では、「あしたがダメならあさってがあるさ。あさってがダメならしあさってがあるさ」と。なるほど、なるほど。

 夏の日の夕方、スコールのような雨が降った。北海道でも南の島のシャワーがあるじゃないか。宮古島にも負けていない。肌にたたきつける雨、吹き飛ばされそうな風、道路は川のよう。そして上り下りの繰り返し。自然との戦いのようなレース。こんな中でレースをさせてもらって、サポートしてくれている人には申し訳ない。ありがたい、ありがたい。大雨の中、エイドに到着すれば気を使ってくれ、こちらの望みを聞いてくれている。ボランティアの皆さん、ありがとう。おいしいコーラをありがとう。たくさんの氷をありがとう。

 そしてしっかり走れた要因のひとつが、フォームに気を使ったこと。きちんとこぶしをつくってしっかり腕を振ること。やっぱりランニングはフォームだ。


  
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